事業再構築補助金では、どのような事業計画をたてる必要があるのか

  1. 1.概要

2021年3月より第一回の公募が開始される事業再構築補助金は、事業者が新分野展開、業態転換、事業・業種転換等のために支出する設備投資資金を中心とした一定の経費に対して補助金を交付することで、ポストコロナ・ウィズコロナの時代においてビジネスモデルを変革すべき事業者に対して、その変革に向けた取り組みを後押しするために創設された補助金制度です。

 

申請が採択された事業者において、実際に補助対象となる経費を支出した後に、当該実績を行政側に報告し、補助金を受給する流れとなります。

 

一方で、当該補助金を申請するための要件の一つとして、「補助金を活用した設備投資をもって、どのように事業再構築を果たし、事業者の収益性を高めるか」を示した事業計画を提出することが求められています。

 

漠然とした事業計画を策定すれば足りるわけではなく、①所定の数値目標を満たし、かつ、②事業再構築補助金を申請する必要性や事業再構築の達成に向けた蓋然性に関する十分な説明が含まれた事業計画を策定することが必要です。(所定の数値目標や記載すべき説明事項については下表をご参照ください。)

 

 

特に、上に挙げた説明事項のうち、「事業再構築の具体的内容」は申請内容の基礎情報となりますが、①そもそも、どのような経費が補助対象になるのかを把握した上で、②その経費が事業再構築に結実することを明確に説明することが必要です。また、行政側で想定する典型的な事業再構築の事例も公表されているため、その内容を参考にして、事業計画を立案することも有効といえます。

 

  1. 2.補助対象となる経費

事業再構築補助金の補助対象(「補助対象経費」)は、主に事業再構築に必要となる設備投資関連の経費であり、「主要経費」と呼ばれます。一方、新規事業の開始に必要となる経費も「間接経費」として補助の対象となります。

 

具体的には、主要経費として、①店舗や事業所が入居する建物の建築や改修に要する費用、②従前の事業を廃止することに伴う建物撤去費、③新規事業に必要な設備やシステムの取得(購入)費用が挙げられます。

 

また、間接経費としては、①新製品を開発する上で必要となる加工や設計に要する外注費、知的財産権(ライセンス)の取得に関する技術導入費、②新規事業に向けた従業員をトレーニングするための教育訓練費、新規事業をプロモーションするための広告宣伝費・販売促進費、③必要な設備を(購入ではなく)リースする際のリース費用、クラウドサービスの利用料、専門家に対する報酬が挙げられます。

 

一方で、①従業員の人件費や旅費、②不動産(新規に土地や建物そのものを購入する場合)・株式の取得費用、車輛や汎用品(通信機器、家具等)の購入費用、③商品の原材料費や消耗品費、水光熱費、通信費、④フランチャイズの加盟料は、間接経費としては認められず、補助の対象外となるため留意が必要です。

 

 

  1. 3.典型的な事業再構築事例(業態転換)と補助対象経費

コロナ禍において、緊急事態宣言による営業時間短縮や人々の自粛意識が高まった結果、飲食業や衣料品等の小売業において、実店舗での売上高が大きく減少したケースも少なくありません。一方で、巣籠需要の増加により、ネット販売(Eコマース)は比較的好調といわれています。そのため、実店舗での営業を縮小して、ネット販売に業態転換を図ることで事業再構築を図ることも選択肢であると考えられます。

 

例えば以下のようなケースが業態転換を伴う典型的な事業再構築事例として想定されています。

①【飲食業】居酒屋を営んでいた事業者が、実店舗での売上減少を受けて店舗を廃止し、オンライン専用の弁当宅配事業に転換。

②【飲食業】喫茶店を営んでいた事業者が、実店舗での売上減少を受けて飲食スペースを縮小し、新たにコーヒー豆や焼き菓子のテイクアウト販売を開始。

③【飲食業】弁当を販売していた事業者が、地元の高齢化ニーズに応えるべく、新たに高齢者向けの食事宅配事業を開始。

④【小売業】紳士服を店舗で販売していた事業者が、実店舗での売上減少を受けて店舗での営業を縮小し、紳士服のネット販売事業やレンタル事業を開始。

⑤【サービス業】ヨガ教室を営んでいた事業者が、感染症対策として「密」を避けるべく、新たにオンラインでのヨガ教室を開始。

⑥【製造業】伝統工芸品を製造していた事業者が、納入先の小売業者における実店舗での売上減少を受けて、既存の実店舗での販売ルートに加えて独自にネット販売を開始。

 

 

それでは、これらの場合、どのような費用が補助対象経費に該当するのでしょうか。

【主要経費】

①、②、④及び⑤の事例でいえば、店舗を縮小することによる解体費用や原状回復費用が発生しますが、これらは建物撤去費として主要経費に該当し、補助対象になると考えられます。また、店舗のレイアウトを見直すことによるリフォーム費用も建物費として主要経費に該当し、補助対象になると考えられます。

①、④、⑤及び⑥の事例でいえば、ネット販売を開始する方法は様々ですが、例えばパッケージソフトを活用する場合はその費用はシステム導入費として主要経費(場合によっては間接経費)に該当し、補助対象になると考えられます。

 

【間接経費】

①乃至⑥の事例に関して、新規事業開始に伴う広告宣伝費、また、クーポンやポイント等の販売促進費については、間接経費に該当し、補助経費になると考えられます。

 

  1. 4.補助対象経費の具体例(新分野展開)と補助対象経費

ポストコロナ・ウィズコロナの時代においては、産業構造の変化もみられ、需要が低迷する産業から需要が拡大する産業に軸足を移す新分野展開も有効な選択肢です。特に、各事業者のコアとなる事業や技術を生かし、その周辺領域に進出するといった方法であれば、事業再構築に結実する蓋然性を的確に訴求できる可能性が高まります。例えば以下のようなケースが新分野展開を伴う典型的な事業再構築事例として想定されています。

 

①【製造業】航空旅客数の減少を受けて需要が減退した航空機向けの部品を製造していた事業者が、既存事業の一部について関連設備の廃棄等を行い、ポストコロナ・ウィズコロナの時代においても比較的需要が堅調なロボット関連や医療機器関連向けの部品製造事業を新規に立上げ。

②【製造業】半導体製造装置を製造していた事業者が、その技術を応用して、脱炭素社会を見据えて国策的に取り組みが加速する洋上風力設備向けの部品製造を新たに開始。

③【食品製造業】和菓子を製造していた事業者が、その製造過程で生成される成分を活用し、新たに化粧品の製造・販売を開始。

④【小売業】ガソリン販売を行っていた事業者が、コロナ禍を経て高まった地元の健康志向に応えるべく、新たにフィットネスジムの運営を開始。

⑤【運輸業】タクシー事業(一般乗用旅客自動車運送事業)を営む事業者が、新たに一般貨物自動車運送事業の許可を取得し、市場が拡大する食料等の宅配サービスを開始。

⑥【建設業】土木造成・造園業を営む事業者が、ポストコロナ・ウィズコロナの時代において見込まれるアウトドア市場の拡大を捉えて、自社所有の土地を活用してオートキャンプ場を整備し、観光事業に新規参入。

⑦【情報処理業】画像処理サービスを営む事業者が、映像編集向けの画像処理技術を活用し、ポストコロナ・ウィズコロナの時代において導入の必要性が議論される遠隔画像診療にも対応する医療向けの診断サービスを開始。

 

 

それでは、これらの場合、どのような費用が補助対象経費に該当するのでしょうか。

【主要経費】

①乃至③の事例でいえば、製造設備を入れ替える際の既存設備の撤去費用、新設備の購入費用は設備費として、更に工場の改修費は建物費として主要経費に該当し、補助対象になると考えられます。

④の事例でいえば、フィットネスジムの開始に向けた設備の購入費用は設備費として主要経費に、そして設備をリースする場合はそのリース費用は間接経費に該当し、補助対象になると考えられます。一方、フィットネスジムを開設するための物件そのものを購入しても、その取得費用は補助対象にはならない見込みですので留意が必要です。

⑤の事例でいえば、宅配サービスの受注に向けたシステム構築関連費用は設備費として主要経費に該当し、補助対象になると考えられます。一方で宅配用の車両を別に購入した場合であっても、それは補助にはならない見込みですので留意が必要です。

⑥の事例でいえば、キャンプ場に関する設備の購入費用は設備費として主要経費に、そして設備をリースする場合はそのリース費用は間接経費に該当し、補助対象になると考えられます。一方、土地の造成費用は建物費には該当せず、補助対象にならない可能性が高いです。

⑦の事例でいえば、医療向け診断サービスに対応すべくソフトウェアを取得した際の費用はシステム購入費として主要経費(場合によっては間接経費)に該当し、補助対象になると考えられます。

 

【間接経費】

①乃至⑦の事例に関して、新しい部品を製造したり、新たなサービスを提供する上では、従業員へのトレーニングも必要になりますが、その研修費も間接経費に該当し、補助対象になると考えられます。また、新規事業開始に伴う広告宣伝費、また、クーポンやポイント等の販売促進費については、間接経費に該当し、補助経費になると考えられます。

 

  1. 5.まとめ

現時点では、何が補助対象経費に該当するかについての大枠は示されているものの、経費と一口にいっても様々な種類があるため、最終的には行政による個別具体的な判断に依拠する可能性もあります。そのため、現時点では、補助対象の範囲について、より限定的に想定して事業計画を策定する方が安全であると考えられます。

 

また、事業計画を策定する上では、①ポストコロナ・ウィズコロナの時代における需要拡大が見込まれるサービスの開始であったり、②各事業者が元々有していた技術やノウハウを生かした取り組みであれば、事業再構築に結実する蓋然性が高まるものと想定され、無事に採択に至る可能性が高まるともの考えられます。

 

株式会社樫乃屋では、事業再構築補助金の申請を検討されている企業・個人事業主の方のサポートを行なっております。事業再構築補助金にご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。